ピッケルについて

前穂高ダイレクトルンゼ
前穂高ダイレクトルンゼにて

もくじ

1.はじめに

ピッケルとはどの様にして使用され、形を変え現代の我々まで伝わって来たのであろうか。ヨーロッパアルプスでは古くから、山頂には悪魔が棲むと恐れられ、人々はその山頂に登ることは考えなかった。しかし科学者達が高山の気象や気圧に興味を抱き山頂を目差すようになる。やがて多くの山々が登られる様になると、悪魔の伝説も消え登山趣味=アルピニズムの発展により、多くの登山家を生みアルプスはその山頂を次々と人間に明け渡していく。当時のピッケルは人間の背丈ほどもあり、ピックで氷を鳶口の様に引っ掛けて登ったり、ブレードで氷に足場を切ったり、氷河ではクレバスを探す為雪に差し込んだり、杖に使用したりしていた。これらの使用法は現代の氷雪の登攀でも同じであり、日本でも戦前までのピッケルは胸から腰までの長さがあった。これは雪に深く差し込み確保の支点として安全を図り、また杖の代わりに使用すると雪深い所では長いシャフトが必要であった。戦前の雪山はテントや多くの荷を背負い、ピッケルは杖として重要な役割を果たしていたので、短い物では用を足さなかった。

2.戦後のピッケル

昭和20年以降、ヨーロッパアルプス、ヒマラヤを目差す登山者がおおくなり、雪と岩の「登攀技術」が重要になって来た。この為岩壁や氷壁の登攀が盛んとなり、長いピッケルが邪魔になり、段々と短い物に変化してきた。特に最近30年のピッケルの変化は激しく、「雪と岩を目差すアルピニスト」には考える所はあるが、はたして我々中高年の登山者にとってこの短いピッケルが有効であろうか。この事は大いに考えなければならない、ピッケルは雪山において単なる飾り道具ではない。いかに有効的に使用するかが大切な事である。

3.日本の国産ピッケルの歴史

明治40年代から大正時代、ヨーロッパアルプスの登山をした人々によりピッケルが日本に渡り、昭和初期に仙台の山内東一郎と、北海道札幌の門田直馬(かどた、なおま)の二人の鍛冶職人が登山家の助言により、何度も試作し完成させた。山内の第一作(昭和四年頃)は大阪好日山荘の大賀氏が、門田の第一作(昭和5年)は札幌のスポーツ博物館に各々所蔵されていると言う。ピッケルとはドイツ語でアイス、ピッケルの略称で「砕氷斧」、英語ではアイス、アック「氷斧」、フランス語ではピオレと言う。明治43年に加賀正太郎氏がヨーロッパから持ち帰ってきたピッケルは長さ110cmで、これが当時の標準的な長さであった。戦前までは110~90cmの長さが一般的であり、戦後になり90~70cmほどになったが、私が昭和40年以降使用していたピッケルも85cmほどあった。この長さでも谷川岳や穂高の岩場の登攀にも決して不便ではなく、雪壁での確保には長いピッケルほど深く差し込めるので安心感があった。現代のクライマーは登攀用の短い物と、杖代わりの長いピッケル2本は最低必要であり、登山内容により何本かの中よりセレクトして使用する時代である。現在国産では愛知県豊田市の二村善則氏のみが製作していると言われている、長谷川恒男氏がグランドジョラス北壁冬季単独登攀に使用したピッケルは二村作である。

4.山と渓谷12月号(2003年)の「ピッケル特集」の紹介

本号の52~53ページに出ている文章を以下に紹介します。 選び方のポイント:ピッケルと云えば登山家の象徴的なイメージがありますが、数ある登山用具の中でもピッケルは魅力在る物です。この様なハードなイメージのあるピッケルですが、実際にはバランスの保持用として杖のように使うことがほとんどです。ピックを氷に突き刺して急斜面の氷と岩の壁を登るなどと言う使い方をするのは、限られたクライマーの世界です。」と書かれ、この特集でも一般的な登山者には杖としても使用出来る長めのピッケルを薦めています。また一般タイプのピッケルとして以下の物を紹介しています。

メーカー長さ
1)カシン、コブラ 58~74cm
2)グルベル、イーグルアックス58~74cm
3)シモン60~79cm
4)カンプ、ゼファー50~90cm

以上50~90cmの長さのピッケルが市販されています。

日本人に合う長さは75~80cm位とされています。女性でも65~70cmは必要と思います。重さは長くても600g~500gと軽く出来ています。

5、おわりに

氷雪の登攀用具としてのピッケルも、登山、登攀内容の多様化で形と長さにより、色々な機能の物が製作され販売されるようになった。私も現在3本のピッケルを持っているが、長さは76cmと69cmもう1本は50cmである。普段は76cmの物を使用している、女性には69cmの物が使用しやすいようだ、もちろん50cmの登攀用のピッケルなど使用する機会はない。ピッケルもかつての様に「山男の魂」としての存在感は無くなった様だ。最近のピッケルについては以下の様な意見がある。 「登攀の邪魔にならぬ様に短くしたことが、下山時の事故を多くしてはいないだろうか。登頂で精根尽き果てた体でも、杖があればバランスは保てます。ピッケルを原点に戻って考え直してほしい。」登山家、海野氏の忠告は傾聴に価する。技術もあり体力も有る登山家でさえこうした考えがあり、ましてや我々中高年の登山者においてはなおの事ではないだろうか。

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